統計的に見ると乳がんは、日本人女性が最もよくかかるがんです。
年間8万9千人が罹患し、1万4千人が亡くなります。
特に40~60歳前半の働き盛りの女性のかかるがんの死亡率では第1位となっており、最近では罹患患者が高齢化している傾向にあります。
また、生涯的な罹患リスクを見ると11人に1人が罹患しており、罹患率は増加していると言われています。
検診では、喫煙歴や飲酒歴、家族歴などのリスクファクターを問診して、視診・触診を行い、さらにマンモグラフィーや超音波検査を行う、というのが標準的な流れです。
ここで腫瘤や病変が見つかれば、針生検を行うことが最近では多く、このような病理学的な検査によって診断をつけるのが一般的な流れになります。
乳がんであるという確定診断がついた後は、乳がんがどの程度進行しているのか、ステージを知るためにCTを撮影したり、がんの広がりがどの程度であるかを見るためにMRIを撮影し、その結果に基づいて治療を行います。
周囲の組織にがんが広がっていない場合は、非浸潤がんとされてステージは0に分類されます。
浸潤がんであってもしこりが2cm以下でリンパ節への転移が見られないものはステージⅠに分類されます。
ステージ0やステージⅠの乳がんは、治療すればほとんどの場合で根治されますので、手術で腫瘍を摘出し、その結果に応じてさらに薬物療法や放射線療法を行います。
ステージⅡの乳がんは、しこりの大きさが2cmを超え、リンパ節への転移が少し見られるものです。
この場合の治療では、まず薬物療法を行なって腫瘍の大きさをある程度小さくしてから摘出手術を行うことがあります。
また、腫瘤がある程度大きい場合には乳房まで切除するケースもありますが、術後の生活への影響や美容面での影響が大きい場合には、切除術の後に乳房の再建を行うことがあります。
ステージⅢの乳がんは、局所進行乳がんともいい、しこりの大きさが5cmを超えて、リンパ節転移も高度に起こっているというケースを指します。
局所進行乳がんの場合、通常は術前に化学療法、抗がん剤等で治療してから手術を行うケースが多くなっています。
ここからさらに他の臓器への転移が見られるケースはステージⅣに分類されます。
この場合は、切除手術を行うのは一般的では無く、転移巣をコントロールすることが主な治療になるため、薬物療法が中心となります。
薬物療法を行う際には、その進行ステージにかかわらず、その患者の持っているホルモン受容体や特定の分子の遺伝子を持っているかどうかが重要になります。
これらのバイオマーカに応じた薬物を投与することで、最大限の治療効果を引き出します。
術前化学療法はステージⅡ・Ⅲの患者に対して切除手術を行う前に抗がん剤などの投与を行うという治療です。
また、バイオマーカーの1つであるHER2が陽性の患者に対しては、トラスツズマブやペルツズマブといった特定の薬剤を用いた治療が行われています。
高齢者や合併症によって全身麻酔による手術をすぐに行うのが難しいとされている患者に対しては、ホルモンの投与を行い、タイミングをみて手術を行う場合が多く、また85歳以上の高齢患者にはホルモン治療のみで手術は行わずに経過観察を行うというケースが多くあります。