乳房温存術による治療は主に小さな乳がんに適用されます。
乳がんの摘出術の際には、マンモグラフィーや超音波検査、MRIなどでがんの広がりを十分に見極めた上で、ある程度の余裕を持って広い範囲を摘出するのが一般的です。
そのため、腫瘍塊がある程度の大きさを超えると、乳房の温存は難しくなります。
乳房温存術のメリットとして一番に挙げられるのは、傷が小さいことです。
また、摘出範囲が狭いため、痛みや痺れなどの術後の症状も少なくなります。
一方、乳房温存術のデメリットは、がんを取り切ることができずに残ってしまうリスクがあるということです。
取りきれなかったがんは、後に再発や転移を起こす可能性があります。
これを防ぐために、乳房温存術の場合は手術後の放射線治療が必須になります。
これも1つのデメリットと言えるでしょう。
遺伝性乳がんの患者に対して乳房温存術を行なった場合、遺伝性以外の乳がん患者に比べると、局所における再発率が高いという結果も出ています。
このため、手術を行う前に遺伝子検査などで遺伝性乳がんであることが分かっていれば、乳房温存術ではなく全摘術を考慮するケースもあります。
乳房全摘術のメリットは、乳頭や乳輪を含めた乳腺組織を全て切除するため、がんを綺麗に取り切ることができるということです。
これによって、転移によって乳がんと同側に形成される異時性多発がんのリスクを減らすことができます。
一方、デメリットとしては、傷が大きいことに加えて、筋膜まで侵襲する場合もあるため、術後の痛みや痺れ、腕を動かしにくいなどの後遺症のリスクが高くなります。
また、乳房温存術と乳房全摘術を比較した時、術後の生存率・再発率には差がないと言われています。
乳房摘出術の術後治療は、ホルモンの陽性・陰性やステージによって異なります。
浸潤がんでホルモン陽性かつステージⅠの場合は、乳房温存術・放射線治療を行なった後に、ホルモン治療をするケースが多く、ホルモン治療は標準的なケースで5年間行います。
具体的には、1日1回1錠の内服を継続していきます。
ステージⅡの乳がんの場合はリンパ節転移の可能性もあるため、術後治療に抗がん剤治療を選択する人が多くなっています。
抗がん剤治療にも様々な方法がありますが、通常は点滴療法を行います。
これは3週間に1回のペースが標準的です。
この他にも術後治療として、放射線治療があります。
放射線治療は、腫瘍部分に外から放射線を照射する治療です。
1回の照射時間は5分程度ですが、これを毎週5回、5週間行います。
この方法では、患者の通院負担が大きく、社会生活に大きな影響を与えます。
これを解決する1つの方法が内部照射です。
これは、放射線を発する線源を直接乳腺の中に埋め込むことで、放射線を外部から照射するのと同じ効果を得ることができます。
これによって通院負担を減らし、また照射期間も短期で済むことになります。
がんは「完全に治った」と言いにくい疾患です。
特に乳がんのホルモン陽性タイプでは非常に予後が良いですが、治ったと思っても5年が経過して再発する人も稀にいます。
これは逆に言えば、再発しても、治療をしながら元気に今までと同じような社会生活が可能ながんでもあるということです。
大切なのは、患者自身が何を重視しているのかをよく見極めて治療を選択することであり、それを手助けするのが医師の役割だ、と津川先生はおっしゃっています。