表在咽頭がんの内視鏡治療は全身麻酔を使って行います。そのため、患者さんの体への負担は避けられません。
安全かつ適切に治療を選択するためには、組織学的な裏付けをとることが重要です。
まずは、内視鏡検査で病変の組織の一部を採取し、顕微鏡でくわしく調べます。
そして「扁平上皮がん」または扁平上皮がんを強く疑う「高度異形上皮」が認められた場合、内視鏡治療の適応となります。
一方、筋肉の層まで浸潤している進行がんなどの場合は、内視鏡治療の適応外となり、別の治療を進めていくことが必要です。
もう少しくわしく説明すると、内視鏡治療の適応基準は主に2つあります。
1つは、咽頭がんの広がりが体の一番表面にある「上皮」に留まっている、または上皮のすぐ下にある「上皮下組織」への浸潤が1,000μm未満の場合です。
そのため、腫瘍の形とがんを疑う際にみられる異常な血管(血管異型)の有無を内視鏡でみて診断していきます。
もう1つは、リンパ節への転移がないことです。
がんの広がりや転移の有無を調べるために、頚部のエコー検査やCT検査、必要に応じてPET検査を行います。
近年では、表在咽頭がんの内視鏡治療として内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection; ESD)が主流になってきています。
ESDのメリットの一つは、特殊な光を当てながら病変を見やすくする拡大内視鏡診断(NBI/BLIなど)またはヨードを散布した状態で、腫瘍の広がりをしっかりと診断できることです。
また、従来の内視鏡治療と比べて、ESDでは繊細な操作が可能になりました。
神経や細い血管を避けながら腫瘍の部分だけを切開・剥離できることも大きな特徴です。
ESDの偶発症には、器具により穴を開けてしまう穿孔、出血などがあります。
まれに、皮膚の下に空気が入り溜まってしまう皮下気腫を起こす場合もあります。
ただし、咽頭の下には厚い筋肉が覆っているため、穿孔が起こる確率は非常に少ないといえるでしょう。
また、咽頭領域のESDでは、手術中の出血は非常に少ないです。
しかし、気管に挿入していた麻酔用の咽頭チューブを手術直後に抜く必要があり、その刺激で出血する可能性は少なくありません。
出血した場合、誤嚥や窒息のリスクがあるため、気管切開などの緊急処置が必要になるケースもあります。
咽頭の手術で特記すべき偶発症は、高次機能への影響です。
咽頭には、食べ物を飲み込む、話す、息をするといった機能があります。
手術を受けることで、食べたり話したりするための機能に何らかの支障をきたすケースもあります。
治療を選択する際には、がんを治すことと機能を残すことの両方を考慮することが大切です。