歯周外科治療にはさまざまな種類があります。林先生によると、その代表例として以下の治療が挙げられます:
・中等度〜重度の歯周病治療
・歯茎などの審美的改善を目的とした治療
「歯周病は初期段階では自覚症状が出にくく、気づかないうちに進行します。治療せずに放置すると、最終的には歯を失うこともあります。そのため、進行度に応じた適切な歯周病治療を行うことが重要です。軽度の歯周病であれば、外科治療を行わなくても改善が期待できますが、中等度から重度まで進行した場合は、歯周外科治療が必要となってきます。
実際どの程度に進んでいるのかは歯科医師に診断していただかないと明確にはできないですが、歯と歯の間の歯茎が大きく下がっていると、歯を支えている骨が溶けて、中等度〜重度に進行している可能性が高いです。このような場合に、よく行われるのが『フラップ手術』です。この手術では、歯茎を切開し、歯周ポケット内の奥深くに溜まった歯石や細菌を除去できますので、歯周病の進行を食い止め、出血や膿などの症状を改善する効果が期待できます。
また、審美性を改善する『歯周形成手術』も歯周外科治療の一つです。例えば、歯茎が下がって歯が長く見える方には『結合組織移植術』を行い上顎から採取した歯肉を歯茎が下げたところに移植して、元の形に戻すことができます。反対に、ガミースマイル(笑った時に歯茎が見えすぎる)の方には、『歯冠長延長術』で歯茎を下げて自然な形に整えることができます。」
歯周病治療を検討する際、「どの歯医者を選べばよいのか」と迷う方は少なくありません。林先生によると、歯科医院を選ぶ際に特に確認しておきたいポイントは次の5つです:
各ポイントについて、1つずつ解説していきます。
1.十分な説明があること
1つ目のポイントは検査や治療について十分な説明があるかどうかです。
「通常、いきなり歯周外科治療を行うことはありません。一般的に、まずは歯周ポケットの深さ、出血の有無、歯の動揺度検査(どれくらいグラグラするのか)や、レントゲン撮影などを行います。その上で、検査結果をもとに、歯周病の原因や治療法について丁寧に説明してくれる歯科医院を選ぶことが大切です。
患者さんへの説明を重視している歯科医院であれば、どこを治療する必要があるのか、どこにどれくらいの歯周ポケットがあるのか、さらには歯を支える骨がどの程度溶けているのかなど、具体的な情報をわかりやすく伝えてくれるはずです。こうした点についてしっかり説明してくれる歯科医院を選ぶと安心でしょう。
もし説明に納得がいかない場合は、別の歯科医院を受診してセカンドオピニオンを求めることも検討してみてください」。
2.ブラッシング指導とメンテナンス体制
2つ目のポイントはブラッシング(歯みがき)指導とメンテナンス体制がしっかりしているかです。
「歯周病治療では、患者さん自身のブラッシングが非常に重要になります。そのため、ブラッシングや口腔清掃指導をしっかり行っている医院を選ぶといいでしょう。また、歯周病は治療後も再発する可能性があるため、メンテナンス体制が整っているかを事前に確認しておくと安心です。
ブラッシング指導やメンテナンスは歯科衛生士さんの担当業務でもあるため、信頼できる歯科衛生士さんがいる歯科医院を選ぶことをおすすめします」。
3.歯科医師の専門性
3つ目のポイントは歯科医師の専門性です。
「歯周病治療を専門的に行っている歯科医師を探すなら、日本歯周病学会のホームページが参考になります。このホームページでは、学会公認の認定医・専門医・指導医が都道府県別にリスト化されており、お住まいの地域にどのような資格を持った歯科医師がいるかを確認することできます。認定医であればフラップ手術に対応可能で、専門医であれば再生療法や歯周形成手術といった高度な歯周外科治療にも対応できます。さらに指導医は、認定医や専門医を育成する立場として高度な知識と経験を持っています。
最近は歯科医院のホームページに経歴や所属学会、資格などを掲載する歯科医師も増えています。こうした情報をチェックすることで、歯科医師の専門性を確認する一助となるでしょう」。
4. 保険適用の有無と費用
4つ目のポイントは保険適用の有無と費用です。
「基本的に、フラップ手術は保険が適用されます。ただし、歯周病が進行し歯茎がやせてしまった場合には、歯茎を再生するための再生療法を行うことがあります。この治療は保険が適用されるものとされないものがあるため、注意が必要です。
多くの歯科医院では保険診療と自費診療の両方を行っています。そのため、費用に関してしっかりと説明してくれる歯科医院を選ぶと安心です」。
5.専用の設備や器具の有無
最後のポイントは、歯周外科治療専用の設備や器具が整っているかどうかです。これは、歯周外科治療に特化した歯科医院を選ぶ際に参考になるポイントの一つです。
「歯周外科治療を安全に行うには、専門的な設備や器具が不可欠です。手術器具を確実に滅菌する設備、無影灯などの手術用照明、血圧を監視するモニターなどが整っているかを確認しましょう。また、顕微鏡やルーペ、レーザー機器などの先進的な機器を導入している医院もあります。
こうした設備の有無は歯科医院によって異なりますが、必要な機器がしっかりと整備されている歯科医院を選ぶことで、より安全で質の高い歯周外科治療を受けることができるでしょう。」
歯科医院の中には、歯周病治療を専門とする歯科医院もあります。では、こうした歯周病専門の歯科医院と一般の歯科医院にはどのような違いがあるのでしょうか?
「一番大きな違いは、対応できる歯周病治療の範囲です。一般の歯科医院では、歯石除去などの基本的な処置は対応可能ですが、手術まで行える医院はまだ限られている印象があります。一方で、歯周病治療専門の歯科医院では、フラップ手術をはじめ、高度な歯周外科治療にも対応しています。たとえば、歯周組織再生療法や、歯茎の形を整える歯周形成手術などがその例です。歯周病が中等度から重度に進行している場合や、歯周病による影響で歯茎の形やバランスが崩れている場合は、歯周病治療を専門としている歯科医院を受診することで、より審美性が高い治療を受けられるでしょう。
また、歯周病を専門としている歯科医院の中には、インプラント治療も行っていることがあります。インプラントは、歯を失った部位に人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を被せる治療で、歯を失う原因となることが多い歯周病と深い関わりがあります。インプラントを長持ちさせるためには、事前に適切な歯周病治療を行うことが重要です。そうした観点で歯周病の専門の歯科医院を選ぶのもおすすめです。」
林先生のお話をもとに、歯周外科治療に関するよくある質問をまとめました。
Q1.高血圧などの持病があっても手術できますか?Q2.手術への不安や恐怖心があります。どうしたらいいですか?Q3.妊娠中でも歯周病治療はできますか?このような方は歯周外科治療を受ける際に、ぜひ参考になさってください。
Q1.高血圧などの持病があっても手術できますか?
高血圧などの持病がある場合、まずは歯周外科治療が本当に必要かどうかを慎重に検討する必要があります。持病の状態によっては、手術が適さない場合もありますので、まずはかかりつけの病院や歯科医院に相談してみるのが一番良いと思います。
もし歯周外科治療が必要となった場合でも、持病の状況に応じて治療のタイミングを調整したり、全身管理が可能な病院や口腔外科を併設している歯科医院での治療を検討することが大切です。
Q2.手術への不安や恐怖心があります。どうしたらいいですか?
歯周外科治療に対して不安や恐怖心を感じるのは、自然なことです。そのような場合、笑気ガスや鎮静法を用いて治療中の精神的負担を軽減する歯科医院を探してみるとよいでしょう。
鎮静法を行う場合には麻酔科医が必要になるため、麻酔科医の資格を持つ歯科医師が在籍しているかどうか、事前に確認することをおすすめします。不安な気持ちはしっかり歯科医師に伝え、リラックスして治療に臨める環境を整えましょう。
Q3.妊娠中でも歯周外科治療はできますか?
妊娠中で行える歯周病治療は、基本的にはブラッシング指導やスケーリング(歯石やプラークを取り除く処置)に限定されます。外科的治療は妊娠中には行えません。もし妊娠中に中等度〜重度の歯周病が見つかった場合は、専門の歯科医院を受診し、出産後を見据えた治療計画について相談してみましょう。
最後に林先生より、これから歯周外科の治療を受けようと考えている方に向けてメッセージをお伺いしました。
「歯周外科治療を成功させるためには、歯科医師による専門的な治療に加え、患者さんの協力が非常に重要です。毎日の丁寧な歯みがきや、治療後のメンテナンスをきちんと行うことが、大切な歯を守ることにつながります。歯科医師による歯周外科治療と、患者さんによる日常的なお口のケアにより、歯の健康を長く保てるようにしましょう」。
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林丈一朗先生からご紹介いただいた「良い歯科医院の探し方」を参考に、ご自身に合った医院を見つけてみましょう。
※検索結果に表示されるクリニックは、本記事で解説している「望ましい歯周病対応医院」の基準を必ずしも満たしているわけではありません。また、検索結果の各医院については、本記事の監修者である林丈一朗先生による評価や推薦を示すものではありません。