大腸がんの進行度は、がんの大きさではなく、がんの深さによって分けられます。
大腸がんは、まず腸の内側の粘膜の表面にできて、だんだん深くなってくるわけです。
深くなればなるほど、腸のまわりのリンパなどにもがん細胞が飛んでいるリスクが高まるので、ある程度進んだ大腸がんでは、腸を部分的に切り取る「外科手術」が必要になります。
一方、がんが表面にしかない段階であれば、お腹にメスを入れる必要はなく、お尻から入れた内視鏡で、がんができている部分のみを切り取っるだけで済みます。
「内視鏡治療」の場合、腸管そのものは温存することができるので、体にかかる負担はより少なくなります。
内視鏡治療の方法には、
・輪っかをかけて取る「EMR」(Endoscopic Mucosal Resection:内視鏡的粘膜切除術)
・病変部分を削り取る「ESD」(Endoscopic Submucosal Dissection:内視鏡的粘膜下層剥離術)
の2とおりがあります。
「EMR」では、内視鏡の先から輪っか状のワイヤーを出して、がんに引っかけてギューッと締めた後、電気を流して焼き切るように取ります。
それだけで小さながんは取れるのです。
ただし、がんのサイズが大きくなると、締めあげるための輪っかに入りきらなくなるため、1回では取れなくなります。
昔は、取り切れなかった部分にもう一回輪っかを引っかけて、複数回に分けて取っていました。
しかし、複数回に分けて取ると、すき間に取り残しが生じて、そこから再発してしまうこともあります。
そこで、最近では、カメラの先から専用の電気メスを出して、そのメスを使って病変部分を削り取るように剥がしていき、ひと固まりで取り除く「ESD」という方法が行われるようになりました。
内視鏡治療の対象となるのは、腸の表面にとどまっている大腸がんです。
たとえ小さくても深ければ内視鏡では取り切れません。逆に、大きくても表面にしかなければ、内視鏡治療の適応になります。
ただ、「内視鏡で取れるもの」でも、難易度にはかなりの幅があります。
3センチくらいのがんと、10センチ、15センチのがんでは、やはりかかる時間は異なるのです。それを、どこまで内視鏡治療で行うかは、各施設の考え方にも寄ります。
たとえば、2~3時間以内に取れるものなら内視鏡で対応して、それ以上時間がかかるような大きなものは手術で――と考える施設もあるでしょう。
治療者の技量によっても治療の難易度が変わるため、その判断は難しいところです。
よく患者さんにもお伝えするのですが、内視鏡治療は、うまくいけば体に負担の少ない治療法ですが、決して簡単な治療ではありません。
「内視鏡で取れる=簡単な治療」と思っている方も少なくありませんが、決してそうではないのです。
内視鏡治療は、患者さんの体への負担は少ない分、治療者にとっての難易度は高く、一方で、外科手術は、患者さんは大変かもしれませんが、治療者にとっては難易度が下がります。
そう認識していただけるといいでしょう。
内視鏡治療できっちりがんが取れれば、基本的には再発することはありません。
ただし、そのがんは再発することはなくても、一度がんができたということはリスクが高いのですから、残った腸の違うところに新たな大腸がんが出てくる可能性はあります。
「一度大腸がんになって治療をしたから、もうならない」わけではないのです。
症状が出てからでは遅いので、治療後も定期的に検査を受けていただきたいと思います。
その際、便潜血検査では、早期がんの半分ほど、進行がんでも8割ほどしか見つからないと言われています。
より高い確率で見つけるには、内視鏡検査を受けることをおすすめします。