膵臓がんを根治するには、ほかの多くのがんと同様に手術でがんを完全に取り除くことが基本ですが、膵臓がんの場合、発見された時点で、遠隔転移がみられたり、がんが膵臓のまわりに広がっていたり(「局所進行」と言います)して、すでに手術ができない状態にあることが過半数を占めます。
日本膵臓学会がまとめた「膵癌取扱い規約 第7版」では、下記のように、膵臓がんを「切除可能」「ボーダーライン(切除可能境界)」「切除不能」の3つに分けることが提唱されています。
●切除可能な膵臓がん
標準的な手術によって、肉眼的にも顕微鏡で調べてもがんが残らないように切除することが可能な膵臓がん
●ボーダーラインの膵臓がん
標準的な手術では、目に見える範囲では取り切れても、顕微鏡で見るとがん細胞が残ってしまう可能性のある膵臓がん
●切除不能な膵臓がん
遠隔転移があり、手術の対象にならない膵臓がん
局所進行で、膵臓のまわりの血管を囲むように浸潤していて、標準的な手術を行っても肉眼的にがんが残る可能性の高い膵臓がん
膵臓のまわりには多くの重要な血管が走っています。
まず、膵臓の裏側には「門脈」と呼ばれる肝臓に流れる太い静脈が走っています。膵頭部にできたがんが進行し、膵臓からはみ出ると、この門脈に浸潤することがあります。
膵臓がんが門脈に半周以上接していると、手術でがんを取り切るには、門脈も切除して再びつながなければいけません。門脈に半周以上接していて、手術でがんを取り切るには門脈も一緒に切除しなければいけない膵臓がんのうち、門脈の再建が安全に行えるものは「ボーダーライン」、門脈再建が難しい場合は「切除不能」と判断されます。
また、膵臓のまわりには、複数の重要な動脈も走っています。
膵臓がんがそれらの動脈に接していると、手術でがんを取り切ったように見えても、顕微鏡で確認するとがん細胞が残ってしまう可能性があるため、主要な動脈に半周以上接しているものは「切除不能」、半周未満で接しているものは「ボーダーライン」、接していないものは「切除可能」と判断されます。
切除可能な膵臓がんの場合、手術が基本となります。
切除不能な膵臓がんの場合は、「薬物療法」または薬物療法と放射線療法を組み合わせた「化学放射線療法」が中心となります。
一方、判断が難しいのがボーダーラインの膵臓がんです。ボーダーラインの膵臓がんの場合、手術によって、目に見える範囲でがん細胞を取り切っても、顕微鏡で見るとがん細胞が残ってしまい、手術後に再発することがあります。
そこで最近では、手術の前に抗がん剤治療(薬物療法)や化学放射線療法を行い、がんを縮小・死滅させてから手術を行う治療法も行われています。
ただし、それによって手術でがん細胞を完全に取り切れる頻度が高くなるとの報告も多くある一方で、現状ではまだエビデンス(科学的根拠)が確立されているわけではありません。多くの臨床研究が行われている段階のため、ボーダーラインの膵臓がんの治療法は、病院によって、または医師によって判断の分かれやすいところです。
ですから、「ボーダーライン」と言われたときには、とくに主治医とよく話し合うことが大切です。また、ほかの専門家にセカンドオピニオン、サードオピニオンを求めることも役立ちます。いずれにしても、ご自身が理解・納得した上で治療法を選択することが重要です。
参考
日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会「患者さん・ご家族・一般市民のための膵がん診療ガイドライン2016の解説」