大腸がんのなかでも、肛門からすぐ近くの「直腸」と呼ばれる部分(肛門から20センチメートルほどの大腸のこと)にがんができるのが「直腸がん」です。
直腸がんも含め、大腸がんの手術では、取り残しのないようにがんが広がっている可能性のある腸管とリンパ節を切除し、残った腸管をつなぎ合わせます。
ただし、がんの大きさやがんができた位置によっては、腸と一緒に肛門や肛門括約筋(肛門をしめたりゆるめたりする筋肉)も取り除く必要があり、その場合、「人工肛門(ストーマ)」を作ることになります。
直腸がんの手術には、いくつかの方法があります。
まず、早期の直腸がんでリンパ節転移がないと考えられる場合、肛門から、あるいはお尻側にメスを入れて、がんのみを切除する手術を行います。これは「直腸局所切除術」と言い、肛門は残ります。
次に、おなか側からメスを入れ、がんのある部分の腸管を切除し、縫い合わせるのが「前方切除術」です。縫い合わせる場所が肛門寄りの場合、一時的に人工肛門を作ることもありますが、この手術の場合も肛門は残ります。
がんをしっかり取り除くには、がんよりも2~3センチメートル外側で切除する必要があります。がんが肛門に近く、十分な距離を摂れない場合は、直腸と肛門を一緒に切除することになります。これが、「直腸切除術」です。
この場合、肛門は残せないので、永久的な人工肛門を作ることになります。
ただし、最近では、肛門に近い直腸がんであっても、肛門括約筋のうち内側にある「内肛門括約筋」のみを切除して肛門は温存する「括約筋間直腸切除術(ISR)」という手術も一部の施設で行われています。
この方法では、永久的な人工肛門を避けることができますが、適応は限られているほか、手術には高度な技術を要します。
そのほか、手術前に放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせ、がんを小さくすることで、肛門を温存できることもあります。
なるべく肛門を温存したい、人工肛門は避けたい――というのが多くの患者さんの本音でしょう。
ここで、人工肛門とはどういうものでしょうか。
人工肛門とは、腸の端をお腹の表面に出して、人工的につくられた便の出口のことです。ギリシャ語で「口」を意味する「ストーマ」とも呼ばれます。
本来の肛門は、肛門括約筋によってしめたりゆるめたりすることができますが、人工肛門の場合、自分の意志でコントロールすることができません。そのため、専用の袋(パウチ)を取り付け、出てくる便を受け止めます。
ある程度溜まったら、トイレで袋のなかの便を出します。なお、ストーマの袋は使い捨てで、1日~1週間に1度、交換します(交換頻度は、製品によって異なります)。
人工肛門になると生活が制限されるのではないか、と思うかもしれません。
たしかにこれまでとは異なる排便方法になるので、慣れるまでは面倒かもしれませんが、人工肛門だからといって、食事や入浴、運動などに制限が出るわけではありません。温泉や水泳などを楽しむことも可能です。
また、人工肛門部分には痛みを感じる神経がないため、洋服などが触れても痛くありませんし、最近のストーマ装具は防臭加工が施されているため、臭いが漏れる心配もほとんどありません。
一方で、前方切除術や括約筋間直腸切除術で肛門を温存することができた場合、それまでどおり、肛門から排便することが可能です。
ただし、直腸の多くを切除してしまうため、便を貯めておくことができず、1回に出る量が少なくなったり、排便回数が増えたり、急に便意をもよおしてがまんできなかったり……と、手術前とまったく同じ排便習慣に戻るわけではありません。
つまり、必ずしも、肛門を温存したほうが生活の質が上がるというわけではないのです。
また、何より、肛門を温存することでがんの再発のリスクが上がらないか、しっかり検討する必要があります。
直腸がんにおいてどのような手術を行うか、肛門を温存するかどうかは、がんを治すことを最優先した上で、「どんな生活を送りたいのか」を考え、主治医とよく話し合って決めることが大切です。
その際、医療機関によって対応できる手術方法に差がある可能性もあるため、より選択肢を広げるには、がんの専門病院など、直腸がんの手術経験が豊富な病院、医師にセカンドオピニオンを求めることも有用です。