乳がんの手術には、乳房をすべて切除する「乳房切除術(乳房全摘手術)」と、がんができている部分のみを切除する「乳房部分切除術(乳房温存手術)」の大きく2つがあります。
なお、乳房温存手術の場合は、手術後に放射線治療を組み合わせることが一般的です。
乳房を全摘するか、温存するかは、手術を受けることになった患者さんにとって、非常に悩むことだと思います。
乳がんの手術には全摘か温存かという選択肢がありますが、がんの大きさや位置、乳房の大きさなどによっては、乳房部分切除術(乳房温存手術)を選べないこともあります。
乳房温存手術の適応外となるのは、以下のような場合です。
・同じ乳房の離れた場所にがんが複数できている
・がんが広範囲に広がっている
・手術後、放射線療法が行えない
・がんの大きさと乳房の大きさのバランスから、乳房を温存してもきれいな形が保てないことが予想される
・患者さん自身が乳房温存療法(温存手術+放射線治療)を希望していない
前述の5つの条件に該当せず、乳房部分切除術(乳房温存手術)が可能な場合、もちろん主治医と話し合いながらですが、最終的には患者さんご自身が、温存か全摘か選ばなければなりません。
まず、ステージ1、ステージ2の乳がんの場合、全摘でも温存療法(温存手術+術後の放射線治療)でも生存率に差はないことが、複数の大規模な研究で明らかになっています。
ただし、局所再発率(手術をした側の乳房やまわりの皮膚、リンパ節などに再発する割合)は、「乳房温存療法で5~25%、乳房全切除術で2.3~18%」(乳癌診療ガイドライン①治療編 2018年版)と、温存した場合のほうが高いと言われています。
温存療法のほうが局所再発率はやや高いと聞くと、不安になるでしょう。
ただ、すでに述べたように生存率に有意差はなく、また、どのような場合に局所再発が起こりやすいのかという検討も行われています。
手術で切除した組織の断面を顕微鏡で調べた結果、がん細胞が見つかった場合(「切断断端陽性」と言います)は、局所再発のリスクが上がるため、切除範囲を広げる、全摘に切り替える、手術後の放射線治療を増やすといった方法が採られることもあります。
なお、最新のガイドラインである「乳癌診療ガイドライン①治療編 2018年版」では、ステージ1、2の乳がんの手術としては「適応があれば乳房温存療法を第一選択とする」とされています。
ステージ1やステージ2で温存療法が第一選択とされるなら、ステージ0の、乳管内にとどまっている非浸潤がんならすべて乳房を温存できるのでは、と思うかもしれません。
ところが、そうではありません。
まず、非浸潤乳がんの場合、適切な治療を行えば、転移や再発することはほとんどないと考えられています。
そして、ステージ0の非浸潤乳がんにおいても、乳房切除術(全摘術)でも乳房温存療法(温存術+手術後の放射線治療)でも生存率には差はありません。
日本乳癌学会の「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」によると、「手術例を集計した報告では、10年生存率は乳房温存療法で95~100%、乳房切除術で98~100%」です。
ただし、たとえがんが乳管内にとどまっていても、乳管内で広範囲に広がっている場合は、温存療法では再発のリスクがあるため、全摘が勧められます。
そのほか、がんの大きさが少し大きく、乳房温存手術は難しいと考えられるケースでも、手術の前に薬物療法を行い、がんが縮小すれば、温存療法が可能になることもあります。
また、乳房全体を切除した上で、乳房の皮膚は残す「皮膚温存乳房切除術」や乳頭や乳輪も残す「乳頭温存乳房切除術」もあります。
これらの方法では、乳房切除とともに乳房の再建を行うことで、乳房の形をきれいに保ちやすいというメリットがあります。
全摘よりも温存を希望する方の多くは、「少しでも乳房を残したい」「治すだけではなく、できる限り審美性(見た目のきれいさ)も損ないたくない」といった思いからでしょう。
80年代半ばから乳房温存手術がはじまり、いまでは全摘よりも温存療法が多くなっていますが、最近では、人工乳房(インプラント)による乳房再建手術も保険適用されたこと、乳房再建の技術も上がっていることから、全摘手術を行ったあとに乳房再建手術を受ける方も増えています。
このようにいろいろな選択肢があるだけにどれがベストな方法なのか悩まれると思います。
それぞれにメリット、デメリットがあるので、主治医からしっかり説明を聞き、場合によっては主治医だけではなくほかの専門家の意見も聞き、納得した上で自分にとってベストな治療法を選ぶことが大切です。
参考
日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン①治療編 2018年版」
日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」