45歳以下の女性の乳がん患者さんのうち、妊娠中や授乳中の人は2.6%いると言われています(「乳癌診療ガイドライン①治療編 2018年版」より)。およそ40人に1人と考えると、決して「珍しいこと」ではありません。
また、妊娠中に乳がんが見つかったら妊娠の継続は難しいのでは……と心配されるかもしれませんが、妊娠と乳がんの治療を両立することもできます。
妊娠中であっても「予後には差がない」という報告もありますし、妊娠を継続することや出産・授乳によってがんの進行が早くなったり、再発のリスクが高まったりすることもないと言われています。
妊娠中であっても、超音波検査(乳腺エコー検査)、細胞診・針生検は、胎児への影響もなく、安全に行うことができます。
一般的に乳がん検診では、放射線を使うマンモグラフィは、妊娠中には避けるよう言われることが多いですが、腹部を鉛の板で覆い、胎児に放射線があたらないようして受けることができます。
ですから、もし、妊娠中に「もしかしたら乳がんかも」と気になる症状があったら、産科のかかりつけ医に相談するとともに、乳腺外科を受診しましょう。
妊娠中であっても、一般の乳がんの治療と同じように、基本的に、病期やサブタイプに応じて治療法を選択することになります。ただ、治療法によっては胎児への影響を考え、避けたほうがよいものもあります。
まず、手術は、全身麻酔のもとに受けても、母体の安全も守られ、奇形などを起こす割合も増えないことが複数の研究結果から示されています。
ただし、赤ちゃんの器官ができる「妊娠前期(15週まで)」に手術を受けると、麻酔の影響から流産のリスクがやや高くなると言われています。
そのため、乳癌診療ガイドラインでは、可能であれば「妊娠中期以降に外科手術を行うことを勧める」とされています。
妊娠前期に乳がんが見つかった場合には、妊娠中期まで待って手術を受けることも選択肢のひとつです。主治医とよく相談しましょう。
手術の方法は、妊娠をしていてもしていなくても変わりません。
ただ、乳房部分切除術(乳房温存手術)を受ける場合には、再発のリスクを減らすために術後に放射線治療を組み合せることが基本とされているので、そのタイミングを考える必要があります。
妊娠中の放射線治療はすすめられないので、出産後に行うか、場合によっては乳房切除術(乳房全摘術)がすすめられることもあります。
乳がんの薬物療法で使われる薬には、「抗がん剤」「分子標的薬」「ホルモン剤」の大きく3つのタイプがあります。
妊娠前期にはいずれのタイプの薬物療法もすすめられませんが、妊娠中期以降(16週以降)であれば、胎児のからだの重要な器官がほぼ完成しているので、胎児への影響がないとされる抗がん剤を使って治療を行うことがあります。
ただし、分子標的薬、ホルモン剤(ホルモン療法)、は、胎児に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中期以降も含め、妊娠中には基本的に使いません。必要な場合は、出産後に行います。
妊娠中の乳がんの治療は、がんをしっかり治すこととともに、安全に妊娠を継続することも考えなければならず、どのような治療法を選ぶべきか、選んだ治療法で本当に良いのか、悩むことも多々あるでしょう。
できるかぎり安心して治療を進めるためにも、気がかりなことがあれば主治医に相談し、それでも不安が残ればセカンドオピニオンを求めることも有益です。
参考
日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」
日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン①治療編 2018年版」