乳がんは比較的若い人に多いがんですが、65歳以上の高齢者の全体数が増えているなか、70代、80代と高齢で乳がんになる人も増えており、閉経後に乳がんを発症することもあります。
高齢で乳がんが見つかった場合、あるいは高齢の親に乳がんが見つかった場合、手術を受けるべきかどうか、悩むでしょう。高齢者の場合、手術には耐えられないのではないか、手術のダメージによってかえって全身状態が悪くなるのではないか――など、不安に思うかもしれません。
ただ、「年齢」のみで手術の可否を決めることはできません。
日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン①治療編 2018年版」では、「高齢者の乳癌に対しても手術療法は勧められるか?」との問いに対して、「手術に耐え得る健康状態であれば、高齢者の乳癌に対しても手術療法を行うことが標準治療である」と結論づけています。
つまり、高齢であろうと、全身状態が良ければ手術がすすめられるということです。
そのエビデンス(科学的根拠)として、乳癌診療ガイドラインでは、70歳以上の乳がん患者さんに対して、「ホルモン療法(タモキシフェン)のみ」で治療を行った場合と、「手術、または手術+ホルモン療法」で治療を行った場合で比較した複数の研究を分析した結果を紹介しています。
これによると、生存率には差はなかったものの、「無増悪期間」(がんが進行せずに安定していた期間)と「局所制御率」(治療した部分が安定している割合)は、「手術+ホルモン療法」のほうが、有意に結果が良かったそうです。
では、「手術に耐え得る健康状態」とはどういうことでしょうか。
国際老年腫瘍学会は、次のような項目を評価すべきと指摘しています。
①身体機能(ADL:日常生活動作やIADL:手段的日常生活動作)
②併存症(薬剤を含む)
③認知機能
④精神機能(抑うつなど)
⑤社会的環境、支援体制
⑥栄養
⑦老年症候群(加齢に伴いあらわれる症状や兆候)
高齢者の場合、がんの大きさや進行度だけではなく、そして年齢だけでもなく、認知機能や生活環境なども含めた複数の観点からトータルで評価し、手術を行うことによるメリットとデメリットを考える必要があります。
また、何より、「患者さん自身がどうしたいのか、どう生きたいのか」という本人の希望も大切です。答えは一つではないからこそ、悩むかもしれません。なかなか答えが出せないときには、複数の専門家の意見を聞いてみることも役立ちます。