「ダヴィンチ」とはアメリカのインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社が開発した手術支援ロボットです。
現在(2018年2月)、日本で唯一承認されている手術支援ロボットになります。
患者さんの負担の少ない鏡視下手術(胸腔鏡下手術と腹腔鏡下手術)を発展させ、手術をロボットを用いて行うことによって、従来は難しかった繊細かつ正確な手術操作が可能となりました。
「ロボット手術」と言えども、ロボットが自動で手術を行うわけではなく、医師が遠隔でロボットを操作して手術を行います。
具体的には、医師はサージョンコンソールと呼ばれる機械に座り、ハイビジョン3D画像を見ながら、ロボットアームに付いているカメラや鉗子を操作します。
カメラはズーム機能を搭載し、拡大視野での手術が可能です。
ロボットアームは、医師の手元のハンドルやフットペダルにより、まるで自らの手のように自在に動かすことができます。
現在、ダヴィンチ手術は、様々ながんの手術を中心に臨床応用されてきており、保険適応範囲も広がってきました。
2012年に前立腺がんに対して、2016年には腎がんに対して保険適応となりました。
さらに、2018年4月の診療報酬改定では、肺がん、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がんなど、合計12件の手術に対して、保険適応されることが決定しています。
この適応範囲の拡大により、腫瘍な固形がんは概ねカバーされることになりました。
ダヴィンチ手術のメリットは、まず患者さんの身体に優しい手術であるという点です。
ダヴィンチ手術は、開腹手術と比べて傷口が小さいので、出血量も少なくなります。
そのため、術後の痛みが少なく、回復も早くなる傾向があるのです。
また、従来の方法では難しかったような部分でも、正確に手術できるという点もメリットです。
今までの鏡視下手術ではよく見えなかったり、手が届きにくかったりする部分でも、ダヴィンチを用いることによって術者の動きを正確にロボットに反映することが出来ます。
例えば、大腸のうち肛門に近い部分や、前立腺の裏側など、身体の深部にあり、従来アプローチが難しかった場所が、ダヴィンチを用いてアプローチ可能になりました。
さらに、ダヴィンチ手術では、身体の機能を温存することが期待できます。
例えば、大腸がんの中でも直腸がんでは、出来た場所が肛門に近い場合、肛門を温存できずに人工肛門になってしまうことがあります。
また、直腸の周りには、泌尿器や生殖器を司る自律神経が多く存在しますが、手術でこうした神経を損傷することによって、術後に排尿障害や性機能障害が起こってしまうこともあります。
がんの治療は、がんを取り残さないことが重要なので、どうしても機能を温存できないことがあるのです。
しかし、従来の方法では肛門や自律神経を温存出来ないケースでも、ダヴィンチを用いることによって、機能を温存出来ることがあります。
人間の手では難しかった深部での繊細な動きを、ロボットの手を借りることで実現でき、必要最小限の部分を正確に切除することが出来るようになるからです。
直接的な患者さんのデメリットというわけではありませんが、ダヴィンチの操作には、術者の慣れが必要であるという点に気をつける必要があります。
当然のことながら鉗子には触覚が無いので、誤って周辺臓器を傷つけたりしないように気をつけなければなりません。
ロボットアーム同士の干渉にも注意が必要です。
そのため、ダヴィンチ手術は、熟練した医師の元で行われることが大切です。
現在、ダヴィンチ手術はどこの病院でも受けられるわけではありません。
定められた施設基準を満たした病院のみでしか、ダヴィンチ手術を受けることができないのです。