【目次】
【膀胱がん総論】
膀胱がんは、深達度によって筋層非浸潤がんと筋層浸潤がんに大別されます。膀胱壁は、内側から、粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜が重なった構造になっています。
粘膜から発生したがんが、粘膜下層までにとどまるのが筋層非浸潤がん、筋層以上に浸潤するのが筋層浸潤がんです(下図)。
多いのは筋層非浸潤がんで、膀胱がん全体の約70%を占めています。
筋層非浸潤がんと筋層浸潤がんは、性質が異なり、進行の仕方も違っています。
そのため、両者は治療方針も違っています。
一般に、筋層非浸潤がんは予後がよく、筋層浸潤がんは予後が悪いとされています。
ただし、筋層非浸潤がんの中には、「上皮内がん」という予後の悪い種類もあります。
上皮内がんは、悪性度の高いがん細胞が、粘膜に沿って広がっていくタイプのがんです。
膀胱がんと診断される人の85~90%ほどは、肉眼的血尿(肉眼で明らかな血尿)で受診します。
一方、膀胱がんと診断された時点で、膀胱刺激症状(頻尿や排尿痛)のある人は20%ほどしかいません。
これらの症状が重複して現れる人も一部いますが、多くの場合、自覚症状はないのに血尿が出る(無症候性血尿と言います)で受診されます。
ですので、頻尿や痛みなどの症状がなくても、肉眼的血尿が出たら泌尿器科を受診することが大切です。
現在、発見するための有効なスクリーニング検査はなく、血尿が出て発見されるケースが多いということです。
また膀胱がんは高齢者に多く、男性に多いという特徴があります。
血尿などで膀胱がんが疑われる場合には、必ず膀胱鏡検査が行われます。
膀胱鏡は膀胱内を観察するための尿道から挿入する内視鏡です。この検査を行うことで、がんの有無だけでなく、がんの形態、数、大きさ、位置がわかります。
さらにがん以外の部位の粘膜の変化も調べます。
膀胱鏡は、通常ゼリー状の麻酔薬で尿道に麻酔をかけてから行われます。太さが5~6㎜と細く、尿道に沿って曲がる軟らかい内視鏡なので、痛みでつらい思いをすることはほとんどありません。
尿細胞診検査も行われます。尿に含まれる細胞を顕微鏡で調べる検査です。
ただし、がんの種類によっては感受性が高くないため、検査の結果が陰性でも、膀胱がんがないとは判断できません。
最近、膀胱がん上皮内がん(CIS, Tis)(上記参照)の既往歴のある患者さんを対象に、「ウロビジョン」という検査が保険承認されました。
ウロビジョンは、患者さんの尿中の特定の遺伝子異常を検出する検査で、現在行われている標準的な診断手技(膀胱鏡と尿細胞診)と組み合わせることで、より正確な診断が可能となります。
膀胱がんの存在がわかったら、次に病期診断が必要になります。
がんの深達度や転移の有無を調べるため、まずMRI検査やCT検査といった画像検査が行われます。
CTは、リンパ節転移や遠隔転移の有無を調べるのに適しています。
深達度に関しては、膀胱外まで増殖したがんの診断に適していますが、正確性はMRIに劣ります。
MRIは、がんの深達度を調べるのに有用です。粘膜下層まで(T1まで)にとどまっているか、筋層以上(T2以上)に浸潤しているかを、60~90%の精度で診断することができます。またリンパ節転移の診断にも有用です。
深達度の診断に関しては、画像検査はあくまでも補助的なもので、最終的にはTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除)を行って組織を採取し、病理検査によって診断がつきます。TURBTは、手術用の内視鏡を尿道から膀胱内に挿入し、がんを切除する方法です(図)。
病理検査では、がんの組織型、異型度、深達度を評価します。
膀胱がんの治療方針は、下の図のようになります。
リンパ節転移や離れた臓器への転移がある場合には、病理診断のためにTURBT(上述)が行われますが、治療としては全身化学療法が標準治療となります。
最近は、全身化学療法後の治療として免疫チェックポイント阻害薬が保険承認されています。
転移がない場合には、筋層非浸潤がんと筋層浸潤がんで、治療法が大きく異なります。
そこで、筋層に浸潤しているかどうかを正確に調べるためにTURBTが行われます。
病理検査で筋層非浸潤がんであることが明らかになれば、その時点で手術は終了していることになります。
再発や進展を防ぐため、必要に応じて膀胱内注入療法が加えられます。膀胱内にがんが再発した場合には、再度TURBTが行われます。再発・進展、特に進展のリスクが高い場合には、膀胱全摘除術と尿路変向が進められる場合もあります。
病理検査で筋層浸潤がんであることが明らかになれば、膀胱全摘除術と尿路変向が行われます。まだ、標準治療にはなっていませんが、後述するように膀胱温存療法も少しずつ普及しています。
術後に再発(転移)が起きた場合には、全身化学療法(および免疫チェックポイント阻害薬)が標準治療となります。