【MIBCの標準治療】
筋層浸潤がんの標準治療は、膀胱全摘除術+尿路変向です。
膀胱全摘除術は、男性では、膀胱に加え、前立腺と精嚢も摘出します。尿道に再発するリスクが高い場合には、尿道も摘出します。女性の場合には、膀胱、尿道、子宮、膣前壁を摘出します。
膀胱を摘出した場合、尿を排泄するためには、新たな尿路を作る必要があります。尿路変向にはいくつかの方法がありますが、回腸導管と新膀胱(下図)が、現在行われている代表的な方法です。
どの尿路変向を行うかは、がんのできている部位、上皮内がんの有無、患者さんの年齢や状態や希望により選択されます。
最近は低侵襲手術による膀胱全摘除も普及しつつあり、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術の他、ミニマム創内視鏡下手術も行われています。特に最近保険承認されたロボット支援膀胱全摘除術は急速に普及しつつあります。
膀胱全摘除術を行う場合には、手術前に抗がん剤治療を行う術前補助化学療法が推奨されています。死亡率が低下し、生存期間が延長することが、臨床試験で証明されているからです。体力的に問題がなければ、化学療法が行われます。
使用される抗がん剤は、転移がある場合の治療と同様で、GC(ジェムシタビン+シスプラチン)療法が最もよく行われています。
回腸導管
新膀胱
まず、大きな手術侵襲(患者さんへの負担)があることです。
感染や腸閉塞など手術に関連した合併症率は30%、そして死亡率は全体で1〜3%と報告されています。死亡率に関しては、低侵襲手術、例えばロボット支援手術でもほとんど変わらないという報告もされています。また永続的な性機能障害や長期の消化器症状も認められます。
また尿路変向は、QOL (生活の質)の面でさまざまな問題があります。
回腸導管ではストマによるボディイメージの変化に加えて、集尿袋などの装具によるストマ管理を生涯行う必要があります。
回腸導管は、合併症の少ない安定した尿路変向とされていますが、長期的には、ストマおよび周囲の皮膚のトラブル、尿管導管吻合部狭窄、腎機能低下、尿路結石、尿路感染などさまざまな合併症が認められると報告されています。
一方、新膀胱は、ストマがなく自分で排尿できることが利点ですが、夜間の尿失禁が約30%と高頻度に認められます。排尿困難は、男性で10%、女性では50%程度と高頻度にあり、時には自分で排尿できないため、自己導尿が必要になることもあります。
また新膀胱の小腸粘膜から尿の再吸収があり、血液の電解質異常、代謝性アシドーシス、腎機能低下を起こすこともあります。
数年前までは新膀胱の患者さんが増えていましたが、最近はむしろ回腸導管の比率が高くなっていると報告されています。
上述のように膀胱全摘除は手術侵襲が大きく、特に高齢者では問題が大きくなります。
例えば周術期死亡率は全体で1-3%ですが、80歳台では10%程度に上昇すると報告されています。
したがって、特に高齢者、あるいは心臓などに合併症を有する患者さんでは膀胱全摘除を施行できない(施行しない)患者さんの比率が非常に大きくなります。
また上述のように膀胱全摘除は術後のQOL低下も大きいため、若く元気な患者さんでも一定の割合で膀胱全摘除を拒否する患者さんがいます。
米国および日本の最近の報告では、筋層浸潤膀胱がんの患者さんのうち、実際に膀胱全摘除を施行されるのは全体で50%程度に過ぎず、高齢になればなるほどその比率は低くなります。