4者併用療法と3者併用療法

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化学療法
4者併用療法と3者併用療法
膀胱全摘除に関しては、上述の課題が残されているなか、浸潤性膀胱がんでも本来の膀胱を温存したいというのは、世界中の患者さんの願いであり、これまでに多くの温存療法が試みられてきました。

【4者併用療法と3者併用療法】

3者併用膀胱温存療法の内容と適応

 

 

膀胱全摘除に関しては、上述の課題が残されているなか、浸潤性膀胱がんでも本来の膀胱を温存したいというのは、世界中の患者さんの願いであり、これまでに多くの温存療法が試みられてきました。

 

経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)、化学療法、常用量放射線療法(Σ55〜65グレイ)の三者の併用治療最も効果が高いとされ、5年全生存率は60〜70%と膀胱全摘除と同等で、5年膀胱温存率は約50%と報告されています。注意深く選択された筋層浸潤膀胱がんの患者さんでは、生存率は膀胱全摘除と同等で、優れたQOLが期待できると報告されています。

 

 

最近の米国のガイドラインでは、この三者併用膀胱温存療法は、事実上標準的治療となっており、膀胱全摘除と並んで推奨されています。

そしてその適応も、年齢や合併症で膀胱全摘除を施行できない患者さんだけではなく、患者さんが膀胱温存を希望される場合も考慮すべきと明記されています。

 

この三者併用治療による膀胱温存療法の問題点は、10〜20%の患者さんで温存した膀胱に筋層浸潤がんが再発することです。

 

 

再発した場合は膀胱全摘除が必要となりますが、常用量の放射線治療で組織が障害されているため、手術リスクが高くなり、手術の合併症、死亡率が増加すると報告されています。

また筋層浸潤がんの再発は予後不良で、膀胱全摘除を行っても半数が死亡すると報告されています。なおこの筋層浸潤がんの再発は元々がんがあった部位に多いと報告されています。

 

三者併用治療のもう1つの問題は、骨盤リンパ節への再発が15〜20%程度と比較的高頻度に起こることで、これは本治療でリンパ節を摘除できないことが関係している可能性があります。

 

すなわち、三者併用膀胱温存療法の問題点は、筋層浸潤がんの再発および骨盤リンパ節への再発と考えられます。

 

 

MIBCに対する4者併用療法の内容と適応

 

 

当科では、1990年代末より世界に先駆けて、筋層浸潤膀胱がんの根治と機能的膀胱温存の両立を目指し、膀胱温存療法の開発に取り組んできました。

 

根治性を損なわずに膀胱温存が可能と考えられる、腫瘍の範囲が比較的限局した筋層浸潤膀胱がんの患者さんを対象として、膀胱部分切除を組み込んだオリジナルの4者併用膀胱温存療法(図)を開発、実践し、その有用性を報告しています。

 

 

当科の膀胱温存プロトコルでは、対象となる患者さんを以下の通り定めています。

1 筋層浸潤膀胱がんであること

2 がんが単発かつ範囲が広範でないこと(膀胱全体の25%以内)

3 膀胱頚部(膀胱の出口)にがんが及んでいないこと

4 上皮内がんがないこと

 

以上に該当する患者さんに対して、経尿道的膀胱腫瘍切除(①)に続き、低用量の化学放射線療法(②③)を施行します。その治療効果を画像(主にMRI)とTURの病理検査で評価し、

5 明らかな残存がんをみとめない場合

治療の仕上げ(地固め)として、病変部(がんがあった部位)を切除する手術(膀胱部分切除:④)を追加するのが4者併用膀胱温存療法です。

この基準を満たすことは非常に重要で、筋層浸潤膀胱がん患者さん全体の3人に1人程度が本治療の適応になります。

 

 

それぞれのステップについて、以下で詳しく説明します(図参照)。

 

経尿道的膀胱腫瘍切除(①)

尿道から挿入した膀胱鏡観察下に、膀胱の内側からがんを切除する手術です。はじめに十分な経尿道的膀胱腫瘍切除を行うことで、可能な限りがんを減量します。また、正確ながんの深さの診断も、本手術の目的の一つです。

 

 

低用量化学放射線療法(②、③)

経尿道的に可能な限りがんを切除した後、抗がん剤投与(②)と放射線療法(③)を併用する化学放射線療法を施行します。低用量の抗がん剤(シスプラチン)を、放射線療法の治療効果を増感する目的で使用します。放射線療法の照射線量も低用量(40Gy/20回)とし、その後の仕上げの治療として、次に述べる膀胱部分切除を追加することで、放射線療法による副作用のリスクを低減し、かつ高い根治率を得ることを目指しています。

 

 

膀胱部分切除+骨盤リンパ節郭清(④)

化学放射線療法を施行した後、検査(治療効果判定)にて良好な治療効果が確認された患者さんに対して、最終的に膀胱部分切除(病変部の膀胱切除)を施行しています。

これによって、同部での浸潤がん再発を、極めて低い頻度に抑えることに成功しています。また、手術で切除した組織を、病理学的に詳しく検査することで、化学放射線療法の治療効果をより正確に判定できることも利点の一つです。

 

膀胱部分切除はミニマム創内視鏡下手術で行い、さらに、3D内視鏡と3Dヘッドマウントディスプレイを用いたロボサージャンシステムの活用、膀胱の内側から膀胱鏡観察下に切除ラインを設定すべく経尿道的操作を併用するハイブリッド手術の開発と、より低侵襲で精緻な手術を目指し、術式の洗練を進めています。また本手術の際、通常骨盤リンパ節郭清を行います。

 

化学放射線療法の治療効果が不十分であった患者さんに対しては、原則とし、その時点で膀胱全摘除をお勧めしています。

 

 

膀胱癌の治療の流れ

 

 

3者併用膀胱温存療法との違い

 

 

TURBT, 化学放射線療法を使用することは3者併用も4者併用も共通しています。

3者併用膀胱温存療法では放射線の用量が常用量(Σ55〜65グレイ)であるのに対し、4者併用では低用量(Σ40グレイ)です。

その代わり、4者併用ではその後の仕上げの治療(地固め)として、膀胱部分切除を行います。

 

膀胱部分切除は、この4者併用温存療法で重要な役割を果たしています。

私たちは、ミニマム創内視鏡下膀胱部分切除を行っており、特色として小さな切開で、膀胱鏡を用いて正確な切除ラインを設定して精緻な手術を行っています。

 

 

4者併用療法を行う上での患者さんのメリット

 

 

4者併用療法のメリットとしては、まず根治性の高さが挙げられます。

 

筋層浸潤膀胱がんは、上述したように本来悪性度が高く予後は良好ながんではありませんが、4者併用療法を完遂した患者さんでは、非常に高い確率で根治が期待でき、また筋層浸潤膀胱がんの再発はなく生活できます。

筋層浸潤膀胱がんの再発が少ないため、その後に膀胱全摘除が必要になる可能性が3者併用膀胱温存療法に比べて非常に低いことが特長です。

 

温存した膀胱の機能もほとんどの場合良好で、高いQOLが維持されています。

治療成績の詳細は下記治療成績参照ください。

 

 

特に高齢者の方に対し身体的な負担が軽くなる選択肢とお伺いしていますが、どのような観点からでしょうか

 

 

私たちの4者併用療法は、高齢者の患者さんでも若年者と同様に安全に治療を施行しえることが特色です。

 

高齢者と若年者で、治療の完遂率、その後の再発率、膀胱機能などを比較した結果、全く同等であり、超高齢社会にも適した膀胱温存療法と言えます。

もちろん若年者の患者さんでも膀胱温存を希望される場合よい選択肢になると考えます。

 

 

貴院での4者併用療法の治療成績について

 

 

1997年から2016年、312人の筋層浸潤膀胱がんの患者さんが当科を受診されました。

うち154人の患者さんが最初の4つの基準を満たし、低用量化学放射線療法を施行されました。そのうち107人が膀胱部分切除を施行、4者併用温存療法を完遂されました。

この107人についてですが、5年の筋層浸潤膀胱がんの再発率は3%疾患特異生存率(膀胱がんでの生存率)93%全生存率90%と非常に良好な成績が得られました。このように筋層浸潤膀胱がんの再発率が非常に低く、かつ生存率が高いことは、きちんと患者さんを選択していること、また膀胱部分切除が治療成績向上に貢献していることが考えられます。

 

温存した膀胱の機能もほとんどの患者さんで良好で、皆さん尿意があり、中央値で膀胱容量 350ml、夜間排尿2回と蓄尿機能(尿を貯める機能)は良好で、また残尿 25mlと排尿機能(尿を出す機能)も良好です。高いQOLが維持されています。

 

 

再発の頻度と治療方針について

 

 

上述のように、4者併用療法では、筋層浸潤膀胱がんの再発が5年で3%と低いことが特長です。

筋層非浸潤膀胱がんの再発は、17%に認められますが、基本的にTURBT、およびBCGなどの膀胱内注入療法で対応が可能です。

 

筋層浸潤膀胱がん、および一部のリスクの高い筋層非浸潤膀胱がんが再発した場合、膀胱全摘除が必要になりますが、4者併用療法後の膀胱全摘除は、膀胱周囲の癒着などで通常の膀胱全摘除より難易度が上昇します。

しかしこれまでに施行した患者さんでは、大きな合併症はなく遂行できています

 

 

【まとめ】

どのような病院を選択すべきでしょうか

 

 

筋層浸潤膀胱がんに対して、現時点で標準治療である膀胱全摘除+尿路変向に比べ、膀胱温存療法はまだ標準化が十分進んでいないという状況があります。

膀胱温存療法は、患者さんの選択、治療方法などいくつか「コツ」があり、たくさんの患者さんで積極的に膀胱温存療法を行っている病院を選択されることがよいと思います。

また膀胱温存療法には、3者併用や4者併用療法を含め、いくつかの方法があります。

 

 

患者さんへ向けたメッセージ

 

 

筋層浸潤がんの標準治療は、膀胱全摘除術+尿路変向です。しかし、上述したようにこの治療には大きな課題があり、特に高齢者や合併症のある患者さんではこの手術を施行できないことが少なくありません。また術後は大きなQOL低下があるため、「絶対に膀胱をとりたくない」という患者さんもいらっしゃるかと思います。

そのような患者さんは膀胱温存療法を考慮されたらよいかと思います。

 

 膀胱温存療法は、海外では標準的治療の一つとされておりますが、本邦では未だ広く受け入れられておらず、主治医より治療選択肢として提案されない状況も多いのではないかと考えられます。しかしながら、膀胱温存療法の治療経験の多い施設でご相談いただければ、安全に膀胱を温存でき、QOLをほとんど落とさずに生活できる可能性があります。

 

私たちの行っている4者併用膀胱温存療法においても、全ての筋層浸潤膀胱がんの患者さんが対象となるわけではありませんが、基準を満たした患者さんでは高い根治性、膀胱温存率が得られ、温存した膀胱の機能やQOLも良好です。

 

ご希望される患者さんは是非私たち東京医科歯科大学 腎泌尿器外科(泌尿器科)を受診ください。お待ちしております。

 

 

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