内視鏡検査とは、いわゆる「胃カメラ」や「大腸カメラ」のこと。そのクオリティは進化し続けており、現在ではさまざまな消化管の異変を早期発見できるようになっています。
「胃カメラでは、主に咽頭・食道・胃・十二指腸などの早期がんを発見・治療ができます。一般的に、胃カメラといえば「胃のがんやポリープを見つける」とイメージをお持ちの方もいるかと思いますが、実際は幅広く検査・治療できるのです。また、大腸カメラでは、結腸や直腸の細部にあるがんやポリープを早期発見・治療が可能です。」
医療の進化・発展とともに内視鏡検査のクオリティは向上しているとのことですが、以前と比べてどのような違いがあるのでしょうか。
「ひと昔前の検査機器と最新の検査機器を比較すると、チェキと最新iPhoneほどの画質の違いがあると思っています。見えているものが全く異なると言っても過言ではないくらい進化しているので、以前は見つけられなかった数mm単位の早期がんも発見できるようになりました。また、内視鏡検査といえば「鼻から入れる検査は画質が悪いから受ける意味がない」といった都市伝説的な話を聞いたことがある方もいると思いますが、今の時代、こうした心配は不要といってもよいでしょう。」
胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査は、いつ頃から受けるべきなのでしょうか。
「胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査は、40歳を目安に一度受けることをおすすめします。ただし、胃カメラの場合はご両親や祖父母、親戚に胃がんの人がいたり、ピロリ菌感染が指摘されている人がいたりすると発症リスクが高まるため、30代でも一度は検査を受けた方がいいですね。ピロリ菌の検査をしたことがある、ピロリ菌感染の過去がある、といったところをひとつのキーワードとして考えてもらえればと思います。」
*ピロリ菌…胃の粘膜に寄生する細菌。正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」。胃炎や胃がんの発症に関与するとされており、感染している場合は除菌治療が必要である。
内視鏡検査と同じように、消化管の異変を突き止めるために行うのが「バリウム検査」。両者には、どのような違いがあるのでしょうか。
「バリウム検査は、企業健診や集団健診などで勧められることがありますよね。また、「バリウムのほうがつらくなさそう」という理由で、選ぶ方もいるかと思います。しかし、消化器内科医の立場からお話しすると、最初から内視鏡検査を受けた方がいいでしょう。というのも、バリウム検査では検査中の誤嚥、検査後の便秘や腹痛、放射線の被曝などのリスクが伴います。もちろん、内視鏡検査にもリスクはありますが、「バリウム検査だから楽で、内視鏡検査だから大変」ということはないのです。」
「しかも、バリウム検査で異常が見つかった場合は、原因を特定するために内視鏡検査を受けなくてはなりません。つまり、大変な思いを2度しなくてはならないということ。内視鏡検査であれば、鼻から細い内視鏡で検査したり、鎮静剤を使用してうとうとした状態で楽に検査を受けることもできるので、そういった意味でも、はじめから内視鏡検査を選択することをおすすめします。」
*鎮静剤…検査時の苦痛を軽減するために用いる注射薬のこと。内視鏡検査ではよく用いられる薬剤で、使うかどうかは医師と相談の上選択できる。
胃や大腸などのがんを早期発見・治療するために欠かせない、内視鏡検査。では、内視鏡検査を受ける場合、どのような病院・クリニックに受診するとよいのでしょうか。野中先生によると、内視鏡クリニックは次の8項目をもとにチェックするとよいそうです。
・信頼できる医師かどうか
・検査件数
・検査設備
・鎮静剤に対応しているか
・院内環境
・下剤
・ADR
・検査前後の対応
各項目について、順番にみていきましょう。
内視鏡検査を受ける上で「信頼できる医師かどうか」は重要なポイントです。例えば、消化器内視鏡学会専門医資格を保有しているか、話しやすく相談しやすいか、医師との相性はどうかなど、さまざまな角度から見極める必要があります。
「内視鏡検査では患者さんに負担がかかる場面もあり、不安を感じることもあるかと思います。だからこそ、信頼できる医師かどうかを見極めることで、安心して検査を受けていただきたいと思いますね。」
医師の専門性はもちろん、自分に合う医師かどうかを確認することが大切です。
内視鏡クリニックを選ぶ際は、クリニックの検査件数を確認することも大切です。
「地方だとばらつきがあるかもしれませんが、都内ですと年間1,000〜2,000件以上内視鏡を行っているところがよいと思います。それだけ多くの経験を積まれており、患者さんから選ばれているということなのでね。ホームページを見ると、検査件数が掲載されているので、受診する前にチェックしてみるとよいでしょう。」
内視鏡クリニックを検索する際は、検査件数を掲載しているクリニックを選ぶようにしましょう。
内視鏡検査は、検査機器の精度に左右されることがあります。そのため、可能であれば事前に検査設備を確認しておくとよいでしょう。
「オリンパス社ではNBIシステム、FUJI FILM社ではBLI などの画像強調機能が使用できる機器の癌検出性能が高いので、こうした検査機器を導入しているクリニックを選ぶのもおすすめです。」
上記以外に、AI技術を導入しているクリニックも内視鏡検査を重視した診療を行っており、おすすめできるとのこと。特に大腸カメラではAI技術を導入した検査・診断が有用であるため、クリニックを選ぶ際の一つの基準として考えるとよいでしょう。
内視鏡検査は、鼻や口、肛門から専用のチューブを挿入します。そのため、人によっては「痛い」「つらい」といった負担が生じることも。こうした負担や不安を和らげるためにも、鎮静剤の使用は効果的です。
「僕自身も、内視鏡検査は鎮静剤があるクリニックで受けています。我慢して検査を受けるよりも、そのほうが楽に検査を受けられるのでおすすめです。特に胃カメラの場合、歯磨きでえづくことが多い方は鎮静剤を使った方がいいでしょう。負担なく検査を受けるために、ぜひ鎮静剤に対応したクリニックを選んでいただければと思います。」
院内環境も、内視鏡クリニックを選ぶ上で欠かせないポイントの一つです。個室空間の有無や清潔かどうかなどをもとに見極めるとよいでしょう。
「最近は受付から検査を受けるまで、トイレ付き個室を整備したクリニックも増えてきました。なるべく人と会いたくない方や、落ち着いて検査を受けたい方は、こうした基準をもとに選ぶとよいでしょう。また、診察室やトイレが清潔であるかどうかも大切です。トイレなどをきれいに保っているクリニックのほうが、内視鏡の洗浄などもきちんとされているのではないかと個人的には考えます。あくまで私見ですが、トイレのごみ箱からペーパータオルが溢れているようなクリニックは、内視鏡がきちんと洗浄されているのか不安になります。きれいに保たれているクリニックのほうが、対応も丁寧なケースが多いので、参考にしていただければと思います。」
内視鏡検査は、事前にクリニックに受診する必要があるため、その際に院内環境を見ておくとよいでしょう。
大腸カメラでは、検査を受ける前に下剤を内服する必要があります。下剤にはさまざまな種類があるため、それぞれの特徴を踏まえて選択することが重要です。
「通常、大腸カメラの前はスポーツドリンクのような味の下剤を2L程度内服する必要があります。数時間かけて内服するのですが、量が多く大変なので、最近は少ない量の下剤や錠剤タイプの下剤を取り扱っているところもありますね。しかし、その分味が濃くて飲みにくかったり、錠剤の数が50錠以上あって大変だったり、といった話も聞きます。下剤を飲めないと、腸内がきれいにならず正確な検査結果が得られなかったり、検査が中止になったりします。下剤を理由にクリニックを選んで「失敗した」とならないように、慎重に選択したほうがよいと思いますね」
以前下剤を内服したことがあり、「合わない」と感じた方は、医師に別の下剤を処方してもらえないかお願いすることもできます。
まずはスタンダードな下剤を試した上で、合わない場合は別の下剤を依頼するのがベターといえるでしょう。
ADRとは、内視鏡検査を受けた患者さんのうち腺腫が発見された割合のこと。検査件数と同じくらい、内視鏡クリニックを客観的に評価する指標となるといわれています。
「一般的に、そのクリニックの質を担保していると言われるADRの数値は20〜30%くらいとされています。さまざまなクリニックのホームページを見ていると、40%以上と謳っているところもあるので、ひとつの基準として考えていただければと思います。」
ADRはどのクリニックにも掲載されている数値ではないため、掲載している場合は内視鏡検査に力を入れていると言えるでしょう。もちろん、ADRだけが重要ではありませんが、一つの目安としてチェックしてみてください。
内視鏡クリニックを選ぶ上で、検査前後の対応もチェックしておきたいポイントです。
「検査前後の対応も大切ですよね。検査が終わったら終了ではなく、検査後にカラーの検査結果用紙を渡してくれるところであれば、安心できるかと思います。」
医師だけでなく、看護師や他のスタッフの対応が丁寧だと、安心して検査を受けられるでしょう。
野中先生のお話をもとに、胃カメラ・大腸カメラへのよくある質問をまとめました。これから検査を受けられる方や、検査を受けるか迷っている方は、ぜひ参考にしていただければと思います。
Q. 鎮静剤使用の目安はありますか?
鎮静剤は、検査時の痛みや苦痛感が心配な場合は基本的に使用することをおすすめします。また胃カメラを受けられる方で歯磨きの際によくえづく方や、えづきやすい方は鎮静剤を使用した方が楽に検査を受けられます。
Q. 内視鏡検査前日はいつまで飲食できますか?
一般的に、内視鏡検査前日は夕食後以降食事が不可となります。具体的な時間はクリニックでご確認してください。水やスポーツ飲料などの水分は検査当日の朝まで摂取できます。食事ととともに水分摂取をやめてしまうと、脱水や体調不良につながる可能性があるため、指定の時間まではこまめに水分を摂るようにしましょう。
Q. 胃カメラ・大腸カメラは予約なしで受けられますか?
クリニックによって、前日に食事をとっていなければ予約なしで検査を受けられることもあります。ただ、問診や診察で緊急性が高くないと判断された場合は、日時を改めて内視鏡検査を実施するのが一般的です。胃や大腸に異変がないかしっかり検査するためにも、段階を踏むことをおすすめします。
Q. 下剤が苦手です。どうしたらいいですか?
下剤の服用が苦手だと感じる方は少なくありません。そのため、下剤が苦手だと思う場合は、事前に医師に相談しておくとよいでしょう。ただし、下剤にはさまざまなタイプがあり、どのタイプがご自身に合うかは服用してみないとわからないかと思います。はじめて内視鏡検査を受ける場合は、まずは一般的な下剤を選択し、合わない場合に検討することをおすすめします。
Q. 大腸カメラ検査が恥ずかしくて受けるか迷っています。どうしたらいいですか?
近年、内視鏡クリニックでは患者さんが安心して検査を受けられるように、次のような工夫が取り入れられています。
・肛門部位のみが空いた紙パンツの導入(お尻全体が見えない)
・女性医師による内視鏡検査の実施(同性なので恥ずかしさが軽減できる)
こうした取り組みを行っているクリニックだと、安心して検査を受けられるでしょう。適切なタイミングで内視鏡検査を受けるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
最後に野中先生より、これから内視鏡検査を受けられる患者さんに向けてメッセージをお伺いしました。
「現在、年間数万人以上の方が胃がんや大腸がんで亡くなっていますよね。私自身も患者さんの治療にあたる立場として、適切なタイミングで内視鏡検査を受けていれば救える命もあったのではないかと悔やむこともあります。早期で発見し、早期で治療していれば治せる病気なのに、「痛そう」「恥ずかしい」といったイメージで内視鏡検査が受けにくい社会になっているのが、問題だと思うのですね。僕自身は、10年後、20年後も健康でいるために、未来への投資として内視鏡検査を受けていただきたいと思っています。
「どこで受けたらいいかわからない」「わからないからやっぱり行かない」ということではなく、「今はみんな受けるものらしい」「きつくならずに受けられるらしい。じゃあ行ってみよう」と思える社会を目指していければ、僕としても意義があると思っています。まだ内視鏡検査を受けたことがない方は、この機会にぜひ、ご検討いただければと思います。」