内視鏡治療か、外科手術か――治療法を悩む大腸がんとは

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内視鏡治療か、外科手術か――治療法を悩む大腸がんとは
一般的に、がんが粘膜内にとどまっている「ステージ0」、粘膜下層内にとどまっている「ステージ1」のうち粘膜下層への浸潤が軽度のものは“内視鏡治療”が、それよりも深く浸潤しているものは“外科手術”が選択されます。ただし実際は、内視鏡治療でがんを取るべきか、外科手術を行うべきか、悩むケースも少なくありません。 では、どういう患者さんの場合、悩むのでしょうか――。大腸がんを例に、具体的な事例を紹介していただきつつ、埼玉医大国際医療センターの消化器外科 山口茂樹先生と内視鏡科 野中康一先生に、それぞれの立場から語っていただきました。

事例①肛門にかかる早期がん

野中 ひとつめは、肛門から早期がんが出てしまっていた症例です。

「外科手術も検討してください」と、開業医の先生からご紹介された直腸がんの患者さんでした。

 

外科チームと内科チームでカンファレンスを行った結果、まだ40代とお若く、肛門にかかるがんということで、「まずは内視鏡治療を優先しましょう」との結論に達しました。

 

そして内視鏡治療を行ったところ、粘膜内がんであり、治癒することができました。

 

こうした肛門に近いがんの場合、外科手術を行うと、肛門の機能を残せるかどうかが問題になりますが、肛門からどのくらい離れていれば人工肛門にならないのでしょうか?

 

野中康一医師
野中康一医師

 

 

山口 早期がんであれば、永久的に人工肛門になることはほとんどありません。

 

ただ、外科手術を行えば、排便障害は避けられず、一生続きます。

この患者さんの場合、粘膜内がんでしたから、それ以上の手術は必要なかったわけで、内視鏡治療できれいに取っていただけて良かったと思います。

 

 

事例②12センチ大の大きな直腸がん

 

野中 次に紹介するのは、巨大な直腸がんの事例です。

ある患者さんは、12センチくらいの非常に大きながんが、直腸にできていました。

 

こういう大きな病変は、筋肉を巻き込んでいたり、線維化(組織がかたくなること)が強く、穿孔のリスクが10%弱あると言われています。

そのため、内視鏡治療が難しく、一般的には外科手術という選択肢も考えられます。

 

 

大腸壁の断面図

 

実際、この方も、「外科手術を」と当院にご紹介いただきました。

ただ、内科と外科でディスカッションしたところ、

 

①粘膜下層への浸潤を疑う所見がみられない、

②外科手術の場合、術後の排便障害が避けられない

 

――ことから、「内視鏡治療で治る可能性があれば、まずは内視鏡治療を行いましょう」ということになりました。

そして、内視鏡治療を行ったところ、治癒できたというケースです。

 

山口 先ほどの患者さん(「肛門にかかる早期がん」の患者さん)のような場合、外科手術にしても、肛門からアプローチしてがんを切除する「経肛門的切除」という方法もあります。

しかし、12センチという大きさになるとまず不可能で、必ず「直腸切除」になります。

 

内視鏡治療でがんを取り切ることができるのであれば、患者さんにとって非常にハッピーですから、そういう技術をもつ内科医がいて助かっています。

とくに直腸がんは、内視鏡治療で取れるなら治療後の後遺症もありませんから、できる限り内視鏡で取るほうがいいのではないかと思います。

 

山口茂樹医師
山口茂樹医師

 

野中 今は内視鏡治療に使う器具も進化していますので、大きながんでも対応できるケースは増えています。

ただし、粘膜下層に深く浸潤していないことが大前提ですね。

 

ところで、別の患者さんでは、80代のご高齢の女性で、排便の際に10センチ大のがんがお尻から出てくるという方もいらっしゃいました。

 

この方も「外科手術を」とご紹介いただきましたが、話し合いの結果、内視鏡治療で対応し、治癒されて元気に退院されました。

 

山口 かりに粘膜下層への浸潤が多少深くても、リンパ節の転移は1割程度ですから、80代という高齢の方であれば、体への侵襲(ダメージ)を考慮して手術を行うかどうか、患者さんと話し合って決めることが増えています。

 

ただし、それは、ある程度大きながんであっても内視鏡治療で取り切れる技術があることが前提です。

 

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