●野中先生のホリエモンチャンネル(youtube)出演の動画はこちらから:金を使うなら内視鏡に使え!?日本人の約50%が癌と診断される時代にやるべきこととは
野中 この患者さんは「当院であれば内視鏡治療で治してもらえるだろう」と、ご紹介いただいた方でした。
でも、当院で精密検査を行ったところ、盲腸にある7~8センチ大のがんが、小腸と大腸のつなぎ目の「バウヒン弁」を3分の2以上ぐるりと取り囲んでいて、小腸側にも2センチほど浸潤していました。
内視鏡治療でも3~4時間、あるいは4~5時間かければ取れると思いましたが、大腸のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は穿孔のリスクがあります。
私自身は、0.1%以下ですが、一般的には10%近くと言われています。
そこで、4~5時間かけて内視鏡治療(ESD)を行うのと、外科で腹腔鏡手術を行うのとどちらがいいのか、ディスカッションをし、最終的には、「無理をせずに、『回盲部切除術』でいいのではないか」との結論に達して、腹腔鏡手術をお願いしました。
山口 この方のがんは、大腸のはじまりの部分で小腸にかかるところでした。
このあたりは、術後の後遺症はほとんどありません。
手術のトラブルも非常に少なく、2時間ほどで手術は終わり、1週間以内に退院が可能です。
無理をして内視鏡治療を行うより、腹腔鏡手術のほうが、患者さんにとってのメリットが大きいと考えました。
手術にしても同じですが、難しい症例を時間をかけて行えば、やはりどこかに無理があるのでリスクを伴います。
やりやすい方法、いちばん安全な方法で行うのが本来の医療ですから、こうした症例は「どうぞ外科にまわしてください」と、今後も言うと思います。
野中 最後に紹介するのは、横行結腸の右側(肝彎曲)に進行がんがあり、その反対側、横行結腸の左側に良性の側方発育型腫瘍(LST)が腸を半周ぐるりと囲むようにできていた患者さんの例です。
このケースは、かなりの議論になりました。
通常であれば、LSTは内視鏡治療で1時間~1時間半ほどで取れますが、この患者さんの場合、点墨(墨で腫瘍部分にしるしをつけること)がされていました。
点墨がされていると、内視鏡治療の難易度はぐっと上がります。
なおかつ、大腸の半周を覆っていたので、おそらく倍の時間がかかるでしょう。また、穿孔のリスクも上がります。
これから治療をしなければいけない進行がんのある患者さんに、穿孔のリスクが上がる内視鏡治療を行うべきかと考え、我々内科医としては、外科手術で1回で切除することをお願いしました。
山口 この患者さんのことは、とくによく覚えています。
外科医としては、取るべき腫瘍が1つのほうが手術をしやすく、2カ所あると切除範囲が広くなるので、「できれば内科で」と、当初、主治医は伝えました。
ただ、内視鏡治療も大変であり、少し範囲を広げれば1カ所の切除で済むため、最終的には「外科手術で」となりました。
そのあたりはお互いの助け合いですね。
たとえば、直腸がんの肛門側に良性の腫瘍などがある場合には、多少大きくても「内視鏡で取ってください」と言うと思います。
それは、そのほうが術後のQOL(生活の質)が良くなるからです。治療の安全性や患者さんのQOLを考えて話し合えば、どういった方法がいちばん良いのか、自ずと出てくると思います。
野中 このようにカンファレンスで治療方針が変わることもあります。
無理をせずより安全な方法で、もっとも合併症や後遺症が少なく、患者さまにハッピーに帰っていただける方針を選ぶことが大切であり、当院でもそう心がけています。