内視鏡治療から外科手術に変わった大腸がん症例

腹腔鏡下手術
内視鏡治療
ESD
内視鏡治療から外科手術に変わった大腸がん症例
前回に引き続き、「内視鏡治療で行うか、外科手術を行うか」悩む大腸がんの話です。 内視鏡治療のほうが侵襲(体へのダメージ)が少ないとはいえ、トータルで考えた結果、内視鏡治療から外科手術へ治療方針が変わることもあるそうです。 今回は、東京女子医科大学病院の下部消化器外科山口茂樹先生と内視鏡科 野中康一先生に、内視鏡治療から外科手術に治療方針が変わった患者さんの例をご紹介いただきました。

事例③盲腸から小腸側にがんが広がっていた患者さん

 

野中 この患者さんは「当院であれば内視鏡治療で治してもらえるだろう」と、ご紹介いただいた方でした。

 

でも、当院で精密検査を行ったところ、盲腸にある7~8センチ大のがんが、小腸と大腸のつなぎ目の「バウヒン弁」を3分の2以上ぐるりと取り囲んでいて、小腸側にも2センチほど浸潤していました。

 

内視鏡治療でも3~4時間、あるいは4~5時間かければ取れると思いましたが、大腸のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は穿孔のリスクがあります。

 

私自身は、0.1%以下ですが、一般的には10%近くと言われています。

 

そこで、4~5時間かけて内視鏡治療(ESD)を行うのと、外科で腹腔鏡手術を行うのとどちらがいいのか、ディスカッションをし、最終的には、「無理をせずに、『回盲部切除術』でいいのではないか」との結論に達して、腹腔鏡手術をお願いしました。

 

 

山口医師
山口茂樹医師

 

山口 この方のがんは、大腸のはじまりの部分で小腸にかかるところでした。

このあたりは、術後の後遺症はほとんどありません。

 

手術のトラブルも非常に少なく、2時間ほどで手術は終わり、1週間以内に退院が可能です。

 

無理をして内視鏡治療を行うより、腹腔鏡手術のほうが、患者さんにとってのメリットが大きいと考えました。

 

手術にしても同じですが、難しい症例を時間をかけて行えば、やはりどこかに無理があるのでリスクを伴います。

 

やりやすい方法、いちばん安全な方法で行うのが本来の医療ですから、こうした症例は「どうぞ外科にまわしてください」と、今後も言うと思います。

 

 

 

事例④大腸の右側に進行がん、左側に良性腫瘍ができていた患者さん

 

野中 最後に紹介するのは、横行結腸の右側(肝彎曲)に進行がんがあり、その反対側、横行結腸の左側に良性の側方発育型腫瘍(LST)が腸を半周ぐるりと囲むようにできていた患者さんの例です。

 

このケースは、かなりの議論になりました。

 

通常であれば、LSTは内視鏡治療で1時間~1時間半ほどで取れますが、この患者さんの場合、点墨(墨で腫瘍部分にしるしをつけること)がされていました。

 

点墨がされていると、内視鏡治療の難易度はぐっと上がります。

 

なおかつ、大腸の半周を覆っていたので、おそらく倍の時間がかかるでしょう。また、穿孔のリスクも上がります。

 

これから治療をしなければいけない進行がんのある患者さんに、穿孔のリスクが上がる内視鏡治療を行うべきかと考え、我々内科医としては、外科手術で1回で切除することをお願いしました。

 

 

野中医師
野中康一医師

 

 

山口 この患者さんのことは、とくによく覚えています。

 

外科医としては、取るべき腫瘍が1つのほうが手術をしやすく、2カ所あると切除範囲が広くなるので、「できれば内科で」と、当初、主治医は伝えました。

 

ただ、内視鏡治療も大変であり、少し範囲を広げれば1カ所の切除で済むため、最終的には「外科手術で」となりました。

 

そのあたりはお互いの助け合いですね。

 

たとえば、直腸がんの肛門側に良性の腫瘍などがある場合には、多少大きくても「内視鏡で取ってください」と言うと思います。

 

それは、そのほうが術後のQOL(生活の質)が良くなるからです。治療の安全性や患者さんのQOLを考えて話し合えば、どういった方法がいちばん良いのか、自ずと出てくると思います。

 

 

 

野中 このようにカンファレンスで治療方針が変わることもあります。

 

無理をせずより安全な方法で、もっとも合併症や後遺症が少なく、患者さまにハッピーに帰っていただける方針を選ぶことが大切であり、当院でもそう心がけています。

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